LOGIN(おおぉ! 大成功じゃん)
ユウヤは満足げに息を吐き、張り詰めていた殺気を霧散させた。ドーム状の結界を解くと、そこには驚きに目を見開いたままの護衛が立っていた。
張り詰めていた結界が霧散し、密度を増していた空気がふわりと解けていく。ユウヤは肩の力を抜いてふぅ、と静かに息を吐き出し、先ほどまでの険しい表情を和らげた。
「ありがと。それで、どうだった?」
問いかけられた女性の護衛は、呆然とした様子で自身の掌に残る重みを確かめていた。
「えっと……一瞬、背筋が凍りつくような鋭い殺意を感じましたが、それは本当に、瞬きをする間の一瞬のことでした。次の瞬間には、まるで春の陽だまりの中にいるような、温かくも力強い何かに優しく守られているような……そんな不思議な感覚でしたわ」
彼女は、刀身に微かな熱の余韻を宿して淡く輝くナイフをじっと見つめ、信じられないといった様子で、感嘆の吐息とともに言葉を漏らした。
「大成功だね」
確かな手応えを得たユウヤの口元に、満足げな笑みが浮かぶ。
「おめでとうございます、ユウヤ様。歴史に刻まれるような、このような至宝が誕生する瞬間に立ち会うことができて、この上ない光栄に存じます」
彼女は背筋を正し、深く、敬意を込めて一礼した。その真剣な眼差しには、単なる職務上の称賛を超えた、心からの畏敬の念が宿っている。
「あ、ありがと。無理な頼みを引き受けてくれて、本当に助かったよ」
真っ直ぐな称賛と敬意を向けられ、ユウヤは少し照れくさそうに指先で頬を掻いた。
「お役に立てて、本当に、本当に嬉しいですっ!」
先ほどまでの決死の表情が嘘のように、彼女は頬を林檎のように赤く上気させ、春の陽光のような晴れやかな笑顔を咲かせた。弾むようなその声と、心底嬉しそうに身体を揺らす姿を見て、ユウヤの胸中にも自然と柔らかな灯がともるような、穏やかな安らぎが広がっていった。
「俺も訓練するなら、いつでも付き合うよ」
「はい。ぜひ、お願いします!」
彼女は弾んだ声で応じ、大切
「えへへ、だって友達でしょ?」 彼女は上目遣いでケロリと言ってのけるが、友達同士でこんなことをするだろうか。いや、絶対にしないはずだ。ユウヤは混乱の極致に叩き込まれ、ベッドの上で固まってしまった。 女神様なのに、あまりに無防備で、あまりに積極的すぎる。「え!? 友達同士でキスはしないでしょ」 ユウヤが顔を真っ赤にしながら抗議すると、サーシャは不満げに頬を膨らませた。「えー! だって、久し振りに会えたんだよ? つい、嬉しくてさ〜。えへへ……♪」 彼女は照れ隠しのように舌をぺろっと出し、悪戯っぽく笑う。その奔放な振る舞いに、ユウヤは頭を抱えたくなった。「サーシャって、こんなキャラ……だっけ? もっとお淑やかだったような……」 記憶を辿ってみるが、最初に出会った時もどこか抜けているというか、威厳よりも親しみやすさが勝っていた気がする。そもそも、フレンドリーな感じだったからこそ、ユウヤも「友達になってほしい」なんて口にできたのだ。「ん〜、普段はこんな感じだけど? それに友達でしょ? 女神としてここに居る訳じゃないし。いつも女神様をやってるのって、肩が凝るっていうか、本当に疲れるんだよねっ!」 サーシャは大きく伸びをしながら、ベッドの上で足をパタパタと動かした。 どうやら、他の信徒や住人たちの前では「女神」という仮面を被って、お淑やかに振る舞っているらしい。ユウヤの前でだけは、その重たい役職を脱ぎ捨てて、一人の少女……サーシャとして接してくれている。「いつもは女神らしくしてるんだね。俺の時は始めから、そんな感じだったけど……」「それはユウヤが、最初からわたしを『神様』じゃなくて『わたし』として見てくれたからだよ」 サーシャは少しだけ真面目な顔になり、透き通るような瞳でユウヤをじっと見つめた。その眼差しは優しく、そして深い信頼がこもっている。「……まあ良いか。サーシャがここで過ごしやす
「……あ、あはは。ごめん、色々とバタバタしてて……」 あまりの豹変ぶりに引きながらも、ユウヤは頬を掻きながら苦笑いするしかなかった。『もう、本当に心配したんだから。こっちではあなたの活躍を、ちゃんと見てるんだからね! でも、声が聞けるのはやっぱり別格ねっ♪』 女神様の浮き足立ったような喜びが伝わってきて、ユウヤの心に微かな罪悪感と、それ以上の妙な親近感が湧き上がってくる。「忙しいんじゃ……?」 ユウヤは気まずそうに問いかけた。先ほどの怒声を聞いた後では、どうしても仕事の邪魔をしているような気がしてならない。「あ、良いの。良いの大丈夫よ♪」 女神様の声は弾むように明るく、先ほどの殺伐とした雰囲気は微塵も感じられない。「忙しいのに、すみません」「それで、そっちは……どんな感じなの? 楽しくやってる?」「お陰様で。ミリアたちと一緒に、無事に生活できてますよ。色々と驚くことも多いですけど」「へぇ~良かったっ♪ だったら、遊びに行っちゃおうかな~」「遊びに来れるんですか? 神様の世界から……」 そんなことが可能なのかと、ユウヤが驚きに目を見開いた時だった。「そりゃ……私が創った世界だよ?」 耳元で、吐息を感じるほど近くから、鈴を転がすような声が聞こえた。「え?」 背筋を氷の粒が走るような感覚に襲われ、ユウヤは慌てて振り向いた。 そこには、いつの間にか一人の少女が立っていた。月明かりを透かしたような神秘的な銀髪は、肩の下でふわりとウェーブを描いて揺れている。清楚な白いワンピースに身を包み、悪戯っぽく微笑むその姿は、この世のものとは思えないほど美しい。 透き通るような肌と、宝石のように輝く瞳。神々しさというよりも、どこか親しみやすさを感じさせる圧倒的な美少女が、ベッドのすぐ傍で小首を傾げていた。
「あ……これ、リビングでやることじゃないわ。ヤバイ、外に出よ……」 黒炎が放つ圧倒的な破壊の気配に、ユウヤは冷や汗を流しながら立ち上がった。このままでは愛着のある家具やカーテンが灰になりかねない。「ちょっと庭に出て、剣の素振りでもしてくるね」「ユウヤ様……もぉ……」 ミリアは呆れたように肩を落としつつも、ユウヤの無鉄砲な行動に溜息をついた。その視線の先では、先ほどの護衛たちが再び戦慄し、慌てて道を開けていた。 ユウヤは炎を吹き上げる剣を慎重に掲げたまま、足早に庭へと向かった。 夜の冷気が漂う庭に出ると、暗闇の中で黒炎はいっそう禍々しく、そして美しく揺らめいている。軽く一振りするだけで、風を斬る音の代わりに「ゴォッ」という低い燃焼音が響き、空気が熱で歪んだ。(……これ、ただの属性剣どころじゃないな。火龍の力は、想像以上だな) ユウヤは柄から伝わる力強い鼓動を感じながら、夜の静寂の中でゆっくりと剣を構え直した。 夜の静寂に包まれた庭で、ユウヤは「収納」から木製の人型の的を取り出し、地面に据えた。手の中の剣は、依然としてどろりとした黒炎を纏い、闇を不気味に侵食していた。シュ…… 鋭く横一文字に振り抜くと、手応えは驚くほど軽かった。 斜めに断ち切られた的は、断面から溢れ出した黒炎に一瞬で包まれ、音もなく崩れ落ちて灰へと変わる。これだけの火力がありながら、不思議と周囲の地面には焦げ跡一つ付かず、ユウヤ自身も熱さを感じなかった。(……なるほど、対象物だけに干渉してるのか) ユウヤは再び新しい的を出し、今度は切っ先で軽く突いた。 刹那、接触した一点から猛烈な勢いで黒炎が広がり、生き物のように的を呑み込んでいく。数秒もしないうちに、そこには何事もなかったかのように夜の闇が戻っていた。「おおぉ。これ、面白いかも……」
(おおぉ! 大成功じゃん) ユウヤは満足げに息を吐き、張り詰めていた殺気を霧散させた。ドーム状の結界を解くと、そこには驚きに目を見開いたままの護衛が立っていた。 張り詰めていた結界が霧散し、密度を増していた空気がふわりと解けていく。ユウヤは肩の力を抜いてふぅ、と静かに息を吐き出し、先ほどまでの険しい表情を和らげた。「ありがと。それで、どうだった?」 問いかけられた女性の護衛は、呆然とした様子で自身の掌に残る重みを確かめていた。「えっと……一瞬、背筋が凍りつくような鋭い殺意を感じましたが、それは本当に、瞬きをする間の一瞬のことでした。次の瞬間には、まるで春の陽だまりの中にいるような、温かくも力強い何かに優しく守られているような……そんな不思議な感覚でしたわ」 彼女は、刀身に微かな熱の余韻を宿して淡く輝くナイフをじっと見つめ、信じられないといった様子で、感嘆の吐息とともに言葉を漏らした。「大成功だね」 確かな手応えを得たユウヤの口元に、満足げな笑みが浮かぶ。「おめでとうございます、ユウヤ様。歴史に刻まれるような、このような至宝が誕生する瞬間に立ち会うことができて、この上ない光栄に存じます」 彼女は背筋を正し、深く、敬意を込めて一礼した。その真剣な眼差しには、単なる職務上の称賛を超えた、心からの畏敬の念が宿っている。「あ、ありがと。無理な頼みを引き受けてくれて、本当に助かったよ」 真っ直ぐな称賛と敬意を向けられ、ユウヤは少し照れくさそうに指先で頬を掻いた。「お役に立てて、本当に、本当に嬉しいですっ!」 先ほどまでの決死の表情が嘘のように、彼女は頬を林檎のように赤く上気させ、春の陽光のような晴れやかな笑顔を咲かせた。弾むようなその声と、心底嬉しそうに身体を揺らす姿を見て、ユウヤの胸中にも自然と柔らかな灯がともるような、穏やかな安らぎが広がっていった。「俺も訓練するなら、いつでも付き合うよ」「はい。ぜひ、お願いします!」 彼女は弾んだ声で応じ、大切
薬の効果もあり、護衛たちの顔にはようやく安堵の色が戻り始めていた。彼らは互いに顔を見合わせ、信じられないものを見たという風に戦慄しながらも、無意識にユウヤから距離を取っている。(……でも、殺気に気付いて即座に動けたんだから、やっぱり凄い人たちなんだよな) ユウヤは心の中で彼らをフォローした。普通の人間なら気付く間もなく意識を刈り取られていたはずだ。 それにしても……と、ユウヤは自分の手のひらを見つめた。殺気だけでこれほどまでに相手を無力化できるとは思わなかった。もし「威圧」や「威厳」といったスキルを意図的に使いこなせるようになれば、無駄な戦闘を避け、睨むだけで争いを収めることもできるかもしれない。(威圧と威厳……。いつか覚えられるかなぁ) そんなことを考えていると、ようやく落ち着きを取り戻した女性の護衛が、背筋を正して深々と頭を下げてきた。「失礼いたしました、ユウヤ様。……そして、このナイフ。先ほどの輝き、確かに私を『何か』から守ってくださいました。このような素晴らしい品をミリア様に……。護衛として、心より感謝申し上げます」 彼女の言葉に、ミリアも再び自分の手元のナイフに視線を落とした。深く、静かに輝く青い魔石は、先ほどまでの激動が嘘のように、今はただ優しく主人の手を照らしている。「……ユウヤ様。このナイフ、一生大切にいたしますわ。わたくしを守ろうとしてくださる、あなたのそのお気持ちと一緒に」 ミリアはナイフを愛おしそうに胸に抱き寄せ、春の陽だまりのような微笑みをユウヤに向けた。 女性の護衛が、さきほどからずっと俺のことを見つめてきている。その視線は射抜くように鋭く、それでいてどこか熱を帯びているようにも見えて……。なに? やっぱり、得体の知れない危険人物だと思われて警戒されているんだろうか。「えっと……なに?」 耐えかねて尋ねると、彼女はハッとした
「ミリアに殺意や害意を向けてくる人やモンスターがいると守ってくれるように、魔石に秘密の仕掛けをしてみたんだよ」 ユウヤが少し得意げに明かすと、ミリアは胸元に手を当て、うっとりと頬を染めた。「そうですか……♡ ありがとうございます」「まだ成功したか分からないから……お礼は早いよ」「そのお気持ちだけで、わたくしは十分に嬉しいのですわ」 ミリアは慈愛に満ちた微笑みを浮かべたが、ユウヤは万が一を考えて彼女の肩をやさしく押し、距離を取らせた。「一応、ミリアは少し離れていてくれるかな。悪いね」 魔石がどんな未知の反応を示すか分からない。ユウヤは念のため、ミリア自身の周囲にも目立たない程度の防御結界を二重に張り巡らせた。「はい♪」 ミリアが素直に下がったのを確認し、ユウヤは女性の護衛に向き直る。「それじゃ……殺意を向けるよ〜」「はいっ!! どうぞっ!」 女性の護衛が鋭い呼気と共に身構えたのを見て、ユウヤは「標的を絶つ」という意志を意識の表層へと引き上げた。 瞬間、リビングの空気が凍りついたように一変した。それは、単なる「怒り」などではない。首筋に冷たい刃を突きつけられ、心臓を直接握りつぶされるような、逃れようのない死の予感。ユウヤの周囲から放たれた圧倒的な圧に、空気が物理的な重さを伴って軋む。「あ……がっ……」 護衛の女性は、あまりの恐怖に顔面を蒼白に染め、力なくその場に座り込んだ。ガタガタと歯の根が合わないほど震え、視界が歪むほどの重圧。だがその時、彼女が握っていたナイフの魔石が鮮烈な蒼い輝きを放った。 半透明の美しい障壁が彼女を包み込み、ユウヤの放った殺気を弾き飛ばす。 異様な殺気を感じ取った他の護衛たちも、武器を手に次々とリビングへ飛び込んできた。だが、彼らも部屋に足を踏み入れた瞬間、中心に立つユウヤの放つ「死の気配」に呑まれ、膝を突いて座り込んでしまった。